こだまゴルフクラブ

6898y(6558y) Par72 by New Green


OUT

IN


上田治の最終作は、期待にたがわぬ傑作である」
ゴルフジャーナリスト 小林一人

日本を代表するゴルフコース設計家である上田治。その最後の作品として知られるこだまゴルフクラブだが、
期待を裏切らないコースといっていいと思う。

まず何よりもルーティングがいいし、それぞれのホールも個性的でバリエーションに富んでいる。
実にプレーしやすいし、戦略性はあるけれどもどこかおおらかさを感じるコース。
加えて言うなら「毎日プレーしても飽きない」といった表現が似合うのではないだろうか。

世界的なチェリストであるヨーヨー・マはかつてインタビューで「いまは自分の才能を証明するために演奏する
必要がないのが嬉しい」と語っていたが、おそらく上田治もそういう心境だったのではないか。

世の中に認められる前は自らを認めてもらうための演奏をしなければならなかったが、現在ではその必要がなく、
純粋に音楽を楽しめるという意味でマは語ったのだが、こだまゴルフクラブの依頼を受けた上田治にも自らの才能を証明する
必要はまるでなく、しかも、健康上の理由で最後になるかもしれないという要素が加わっていたのだから、
それが特別なものになるのは自明のことだったのかもしれない。

いまさらながら上田治を紹介しておくと、1930年にかのチャールズ・H・アリソンが来日し廣野ゴルフ倶楽部を造ったときに
助手として働いたのが上田で、それがきっかけでコース設計家の道を歩むようになる。
1940年からは廣野の支配人を務め、戦争で荒廃したコースをアリソンの原設計に復元するという大きな仕事を果たした。
言わばアリソンの哲学を知り尽くした人物であり、廣野のほか鳴尾や川奈の富士コースなど、現在世界的に評価されている
日本のコースが軒並みアリソンがかかわったものだということを鑑みると、手がけた作品の価値の高さが理解してもらえると思う。

さて、こだまゴルフクラブを実際にプレーしてみると感じるのはティーショットの面白さだ。視界に広がる景色は決して狭くはなく
むしろ広いのだが、フェアウェイバンカーが効いているので、ある程度飛距離が出るゴルファーはそこを避けて打っていかなければならない。
距離が出れば出るほどポジショニングを考えなくてはならない巧みなレイアウトだといえるだろう。

グリーン周りはいかにも上田治らしい片側を砲台にした造りが多く、攻めるにはリスクをとらなければならないが、セーフティーに行くことも可能だ。
ガードバンカーは効かせ過ぎず、効かせなさ過ぎずといった塩梅でちょうどいい。グリーンはうねるようなアンジュレーションではないが、
川田太三氏らしく大きな面が折り重なっていて錯覚を生じさせる。

ショートパットが意外な切れ方をする一筋縄ではいかないグリーンだ。 シグネチャーホールはアウトの4番のパー5、インでは
17番のパー3が印象的だ。4番は2打目の落下地点に大きなバンカーが待ち構えていてミスショットを呑み込んでしまう。
バンカーの表面には水が流れているのでここに打ち込んでしまうとウォーターショット余儀なくされ、攻略プランが立たなくなってしまう。
ホールの全景はスタイリッシュだが前半の関門といえるだろう。17番はホールの真ん中にクリークが流れていて
2つのグリーンを分断している。左グリーンの右サイド、右グリーンの左サイドにピンが切ってあるとクリークが効いてきて、
ゲームの展開上攻めざるを得ない状況ではプレッシャーがかかる。

そのほか印象的なのは左サイドに2本の御神木が並び立つの8番のパー5。ここはコースの中央に位置しており、
御神木のアカマツは敷地内の木々を守っているという。ナイスショットを放っても右のフェアウェイバンカーにつかまることが多いのは
神様のいたずらか。また15番は前方後円墳のあるメモラブルなパー5。ここは2打目のポジショニングが重要で、蛇のように走る
右サイドのフェアウェイバンカーに入れないようにしたい。5番のパー3、12番のパー3もしっかりと距離があって
まぐれでは乗せられないホール。挙げ始めるときりがないが、要はすべてのホールがパーを取るとなるとタフであり、
設計家の意図が伝わってくるようだ。

思い返せば、すでに名声を得ていた上田治が、「これが最後になる」という思いを抱きながらコースを造ったとしたら
どんなものになるのか、初見の前はそんなクエスチョンに対する答えをあれこれ考えるのが楽しかった記憶がある。

そして実際にコースと対峙してみると、なるほど最後はこういうものになるのか、と深く納得させられたものだった。
とりたてて難しくする必要はなく、かといって接待コースにするというミッションでもなかったから、
用地から受けるインスピレーションのままに造ったのだろうし、だからこそフェアで、万人が楽しめるコースに仕上がったのだろう。
次はどういうホールと出会えるのか、と胸を躍らせながら18ホールを辿ることのできる巨匠の傑作をぜひ楽しんでいただきたいと思う。